お知らせ 2019年12月20日



経営アドバイザリー委員会 中間取りまとめ




経営アドバイザリー委員会
座長 川上 和久


第1 はじめに


1. 委員会の目的
   本委員会は、吉本興業ホールディングス株式会社(以下、「吉本」)に対して、その重要な経営テーマに関する助言・アドバイスを行うことを目的にしている。

2. 検討課題
   上記の本委員会の設置目的を踏まえ、本委員会においては以下の事項を中心に検討を行った。
  (1) 反社会的勢力の完全排除について
  (2) タレントとの契約のあり方について
  (3) コンプライアンス体制のあり方について
  (4) コーポレート・ガバナンスのあり方について

3. 開催状況
   これまでの開催状況はそれぞれ以下のとおりである。各回の検討事項について吉本側より現状の報告がなされた上で、それに対し各委員間において積極的な意見交換がなされた。
   第1回 2019年8月8日(木曜日)
   第2回 2019年8月19日(月曜日)
   第3回 2019年9月2日(月曜日)
   第4回 2019年11月5日(火曜日)

 今般、当面のものとして委員の意見が集約されたことから、以下、座長による中間取りまとめを行った。(※1)
(※1)なお、一部の委員はタレント・社員を対象に実施したコンプライアンス研修及び契約説明会に同席し、その内容を聴取した。

第2 反社会的勢力の完全排除


1. 現状の反社会的勢力排除に向けた取組み
   現状の吉本における反社会的勢力排除に向けた取組みとして、以下の3点について報告がなされた。
  (1) 取引先の属性調査
  (2) 社員及びタレントに対する反社会的勢力排除の意識徹底(コンプライアンス研修)
  (3) ホットライン
  上記のうち、➁コンプライアンス研修、③ホットラインについては、「第4 コンプライアンス体制のあり方」において整理することとし、ここでは①取引先の属性調査の体制について記載する。

2. 取引先の属性調査概要

 (1) 調査対象
  企業、個人に関わらず、すべての新規取引先を対象に属性調査を実施している。

 (2) 調査方法
  その具体的方法は別紙のとおりである。その調査は2段階に分かれており、主にWebを使ったいわゆるBoolean(ブーリアン)検索を通じた第1次調査と、データ提供サービス及び反社会的勢力排除を推進する公益的な団体・組織への照会による2次調査である。この調査の結果、反社会的勢力と疑われる結果が出た場合には取引は行わないこととしている。

 (3) 直営業の危険性(直営業のルール化)
  タレントが吉本を通さず直接取引先とやりとりをして仕事をとってくるいわゆる直営業については、事前に吉本がその取引先の情報を把握することができない。そのため、上述の属性調査を行うことができないことから、反社会的勢力と意図しない接触可能性が生じる。また、先方から受領する報酬(特に現金手渡しの場合)についてタレント自身で適正に税務申告されないことも可能性として想定される。この2点を解消するという趣旨のもと、直営業ルールを新たに設けた。

 (4) 直営業ルール
  直営業ルールの具体的内容は以下のとおりである。
  ⮚ 直営業の依頼があった場合、報酬の有無にかかわらず、吉本に事前に連絡する。
  ⮚ 吉本は相手方の属性調査を行い、問題なければタレントが稼働する。
  ⮚ 稼働の対価としての報酬は、吉本を通じてタレントに支払われる。
  このように、すべて会社に報告し吉本において属性調査を得ることで、タレントと反社会的勢力との接触を防ぐとともに、報酬を吉本を通して支払うとすることにより収入の発生を客観的に明らかにし、適正な税務申告がなされることを最大限担保している。

3. 本委員会の評価と意見

 (1) 属性調査体制
  現状の属性調査体制は、わが国の主要企業のそれと比して同等かそれを上回るレベルである。吉本が反社会的勢力の排除に向けた強い覚悟・決意のもとで高レベルの属性調査体制を構築し運用してきている事実については、社会一般にしっかりと周知されるべきである。
  現に、この属性調査の結果、反社会的勢力との関連性が認められる又はその蓋然性が認められる相手先との取引を未然に防止することができたケースもあり、一定の効果を上げている。
  一方で属性調査の一般的課題として、反社会的勢力といっても暴力団からいわゆる半グレまで裾野が広がってきており、専門業者の力を借りたとしても、反社会的勢力がどうかの調査には限界があり、また直接的な取引相手先ではなく、間接的に関与する第三者が反社会的勢力である点があげられる。これらの点については、直接の取引先との契約書中に「反社排除表明保証条項」を盛り込むことを徹底することにより、取引相手先と一体となって反社会的勢力が関与する余地を生じさせない体制とすることが有効である。吉本としてはこの方針を採用し、徹底するということであり、その対応方針は了とする。

 (2) 直営業ルールの評価
  反社会的勢力との接触や脱税の可能性を解消するために、吉本への報告を義務付け、吉本による属性調査の実施、報酬については吉本を通すというルールとするものであり、合理的なルールと評価できる。
  残る課題として以下を指摘する。現状の属性調査は外部データ会社への照会も含むため日数がかかる。そのため直営業の報告があったとしても、稼働日までに時間的余裕がなく、調査が完了しない場合が想定される。このような突発的な直営業依頼があった際に、それを認めるのか認めないのか、認めた場合に事後的に属性調査で不審情報が判明した場合の対応方法も明確にルール化する必要がある。
  また、直営業ルールに違反した場合の処理も検討が必要である。ルールである以上それへの違反に対しては何等かのペナルティがなければ機能しない。コンプライアンスの徹底を図るためにも、ペナルティも含めたルールを明確化し、タレントへ十分に周知した上で、運用を徹底していくことが求められる。

 以上のとおり、吉本の属性調査の体制は整備されているものの、今後は、上述のとおり指摘した課題を含め、この体制を正しく機能させていくため、コンプライアンス研修を通じてタレントへ反社会的勢力排除の意識付けを継続的に行っていくことが重要である。

第3 タレントとの契約の在り方


1. 従前の契約状況
  現状の契約状況について、以下のとおり報告がなされた。
  吉本は、伝統的に所属お笑いタレントとの間の契約は書面の取り交わしをせずに、口頭での合意(諾成契約)で運用している。かかる口頭合意でのマネジメント関係に基づいて、吉本は芸能活動に関する営業を行い案件を獲得したり、タレントの芸能活動に係る権利(肖像権、パブリシティ権、著作権、著作隣接権など)を管理し、他方、タレントは芸能活動をし、報酬を受領するという形で運用されてきた。
 なお、全体の所属のうち、スポーツ選手、アーティスト、ダンサー・パフォーマー、アイドル、文化人との間では、一部例外はあるがそれぞれ専属マネジメント契約を書面で締結している。

2. 今後の対応
  吉本に所属する全てのタレントと契約を書面で締結し、サインをもって所属とする運用とする。
  タレントの要望によっては引き続き口頭での専属マネジメント契約のままとする選択も認められるものとするが、この場合にも、吉本所属の前提として「所属覚書(※2)」へのサインを必須とする。所属覚書の内容は、コンプライアンスを遵守して吉本所属タレントとして活動することを明確にしたものである。
  また、現状の専属マネジメント契約の関係を詳細に書面化した「専属マネジメント契約書」及び「専属エージェント契約書」という契約形態も用意し、タレントと協議して締結する。いずれの契約パターンにおいても、報酬及び料率、並びに報酬金額を基礎づける客観的事情(例えば制作費、管理費、在庫負担等の事業コスト及びリスク)は事前に説明し透明化を図る。
  以上についてタレントへの説明会を行い、また個別の相談窓口も設け、丁寧に対応する。
(※2)コンプライアンス遵守を主内容とした共同確認書へ社員及びタレントがサインする方針にて進めていたが、この内容に所属タレントであることを明確にする修正をし「所属覚書」という形式に変更された。

3. 本委員会の意見及び提言

 (1) 書面化及び報酬の明確化   書面契約が世の中の趨勢になってきている。タレントの権利意識も高まってきていることからしても、書面化が望ましい。予定されている今後の契約の在り方はこれに沿うものであり了とする。
  また、報酬の在り方を検討する大前提として、6000人のタレントを所属させ、常設劇場等の設置運営コストを投資しながら、未来のスタータレントを日常的に育成するという吉本のタレントマネジメントの特徴は、今後も維持されるべきである。
  そのうえで、エンタテインメント業界全体の発展のためにも、タレントにより理解の得られる説明がなされた上で、明確で透明性のある報酬設定が継続されるべきである。いずれの契約パターンにおいても、報酬の在り方は十分に説明されるとのことであり、その方針を了とする(※3)。
(※3)タレントマネジメントの在り方について、所属させるか否かの段階で才能を見極め、より厳選した人数のもとで育成を図っていくという考え方もあるが、吉本としては、活躍を夢見て芸能の世界に入ってくる者たちを受け入れ、現に6000人のタレントが所属し吉本芸人と名乗れる体制を敷いていることが最大の特徴である。吉本は先行投資として複数の常設劇場を設け若手タレントでも出演できる環境を整えるなど、コストをかけて育成を行っていることを考慮する必要があるとの意見が出された。

 (2) 契約違反(コンプライアンス違反)の場合の対応
  契約違反、特にコンプライアンス違反(反社会的勢力と意図的に接点・接触を持った場合(※4)、あるいは直営業ルールへの違反)があった場合には、債務不履行等の責任が発生する。契約解除あるいは損害賠償をするという際の基準・ルール化が契約書にて明確化されるべきである(※5)。
(※4)なお、タレントという仕事柄、街中で声を掛けられ写真撮影を求められる事態が突発的に発生することがあり、その声を掛けた者が反社会的勢力であったというケースがある。その写真が世間に公表され、将来的に週刊誌などのメディアで、“反社会的勢力との交際”といった見出しの記事内容が掲載される可能性を排除することはできない。プライベート時における意図せぬ接触への対応については、これを拒否することで別の危険も生じかねないため、写真撮影に応じその写真が世間に公表されること自体をコンプライアンス違反として扱うことはせず、このような出来事があった場合には、マネージャーや吉本のスタッフに速やかに情報共有することの徹底をタレントに求めているとのことである 。後日週刊誌報道が出たとしても、吉本から「その件は事前報告を受けておりました。写真撮影依頼に応じたものに過ぎず、それ以上の関係はございません。」と明確に回答できるのであれば方針として異存ない。
(※5)タレントに契約違反が発生した場合の対応(契約解除、芸能活動の停止、厳重注意といった措置や、これらの期間をどう設定するかなど)については、弁護士や有識者の意見を踏まえた上で公平さ・透明性を確保し、世論や関係各位の理解を最大限得られるようにすることが重要であるとの意見が出された。


 (3) 契約内容の理解
  専属マネジメント契約書、専属エージェント契約書、所属覚書のいずれであっても、タレント各自がそれぞれの契約内容を正確に理解した上で選択できることが重要である。上述した報酬の在り方だけではなく、その他のタレントの権利義務の内容についても、説明会や相談ブースでの説明を通じて丁寧に説明される方針とのことであり、その方針を了とする。

第4 コンプライアンス体制のあり方


1. 現状のコンプライアンスに関する取組み
  現状のコンプライアンスに関する取組みについて以下のとおり説明された。

 (1) コンプライアンス研修
  NSCにおいて入学から卒業までの間、年間6回のコンプライアンス研修を行っている。NSC卒業後も芸歴20年を経過するまでのタレントについては、年2回のコンプライアンス研修の受講を義務化しており、これを受けないとオーディション等タレントとしての活動に参加できないルールにしている。なお、研修にあたってはコンプライアンス冊子を作成し、毎年これを更新している。毎年の芸能界や世間一般での不祥事をトピックスとして挙げ、中心的に注意喚起している。

 (2) コンプライアンス推進体制について
  現状の吉本のコンプライアンス推進体制は以下のとおりである。
取締役会に直結する機関として、コンプライアンス機能を有する各種委員会及び制度を設け、グループ会社及びタレントのコンプライアンスを管理する体制としている。


 (3) 突発的なトラブル対応 ~コンプライアンスホットライン~
  タレントが日常生活や仕事で不安に思うことがあったときにいつでも24時間相談できる窓口「コンプライアンス・ホットライン」制度の運用を2012年12月から開始している。コンプライアンス研修や個別面談の時にもホットラインの存在を説明し、周知されている。
  具体的な運用は、24時間体制で電話やメールでの相談を受け付けている(※6)。相談内容は、コンプライアンス推進委員会の委員長と副委員長に即時に報告が上がり、緊急対応が必要な場合には、委員が現場対応する体制となっている。なお、トラブルの内容等については、コンプライアンス推進委員会委員長から吉本興業ホールディングス役員に対して報告されている。
(※6)女性専用ホットラインの創設を予定しているとの報告もなされた。

 (4) 警察との連携
  毎年、警察OBの顧問が劇場や地方事務所の所在地を管轄する警察署を訪問し、警察署との良好な関係を構築している。これによりトラブルが発生した時の警察署とのスムーズな連携体制を構築している。

2. 本委員会からの意見及び提言
  まず、コンプライアンス研修の継続的な実施によりタレントのコンプライアンス意識の向上が図られている。多種多様な経歴をもつタレントにいかにコンプライアンス意識を高めていくかが重要であるが、この点についてもNSC生については年6回、NSC卒業後についても年2回の定期研修を実施しているとのことであり、教育体制については十分に整備がなされている。
  常設のホットラインによる相談対応により、トラブルの予防効果が十分に期待できるだけでなく、問題を早期把握することでトラブルの深刻化を回避する効果も期待できる。
  さらにコンプライアンス推進委員会の委員を中心とした具体的なトラブル対応においては外部弁護士との連携体制も構築されており、具体的なコンプライアンス事案への対応についても整備できていると考える。

 以上のとおり現状のコンプライアンス体制は十分に整備されている。ただし、このような体制のもとでも、コンプライアンス事案が発生してしまうケースもある。コンプライアンス研修については、その時々の違反事例を取り入れるなど、その内容や在り方は随時見直しながら、常に最大限の効果が期待できるものとして継続されていくべきである(※7)。研修を通じてコンプライアンスに関する知識を持たせるだけではなく、それを意識化させた上で、タレント活動のみならずプライベートにおいても、常にコンプライアンス遵守の精神を自覚させられるかが重要である。
 また、コンプライアンスの実効性を高める上では教育だけではどうしても不十分であり、後述のコーポレート・ガバナンスとも関連するが、①営業部門、➁コンプライアンスオフィサー(業務の適正チェック担当)、③営業部門及びコンプライアンスオフィサーによる体制が機能しているかのチェック機関、このように3線を明確に分けて構築し、このようなコンプライアンスをチェックする専従者の設置についても、将来の課題として検討すべきである。
(※7)研修においては、法令や社会的責任に反することのリスクの説明のみならず、その違反がどのような保護法益(例えば性犯罪については性的自由・自己決定権)に反するのかという点から丁寧に説明されるべきである、との意見が出された。

 さらに、コンプライアンス違反が判明したときに、初期対応が重要であり、タレントからの相談や情報を吸い上げるルートをしっかりと持つべきである(※8)。さらに、ホットラインを通じた相談対応とともに、タレントのメンタルケアの機能をもった制度の構築も検討する価値があると考える。
 社員へのコンプライアンス研修も重要であり、研修成果を上げるためにも、社員が研修に参加しやすい環境を整え、研修の内容や目的を認識させ、より一層のコンプライアンス意識向上を図る運用が望ましい。特にタレントと日々接するマネージャーについては、これまで以上に自身が高度のコンプライアンス意識を持った上で、タレントの意識向上につなげられる役割を担うことが必要である。そして、このようなタレントマネジメントの現場におけるコンプライアンス機能を、コンプライアンス推進委員会を中心に、機能的かつ継続的に運用し管理していくことが重要である。
(※8)吉本スタッフが相談を受けることについてマイナスになるという懸念を持つ可能性があり、そのため外部の弁護士に匿名で直接通報できる仕組みを作るべきとの意見の一方で、顔も見たことのない外部者への相談は躊躇しがちではないかとの意見もあった。

第5 コーポレート・ガバナンス


 1. 現状のガバナンス
  現状のガバナンス体制について、会社法上の監査役会設置会社の機関構成を採用している旨の説明がなされた。

 2. 本委員会からの意見及び提言
  まず吉本のコーポレート・ガバナンス体制については、日本の大企業で採用されている体制に遜色なく、その体制自体に特に問題は見られない。
吉本のさらなる企業価値向上のためには、それにふさわしい体制を構築するのみならず、体制の適切な運用が必須であり、この観点から以下の意見もあった。

   (1) 女性社員がより一層、働きやすい環境の整備や、男性も含めた労働時間の適切な管理をいっそう進めていく。外部からコンプライアンスや女性問題、人権問題に関する専門的知見を有する方を社外取締役として迎えるということも検討すべきである。

   (2) 現状のガバナンス体制をより実効的に機能させられるかについて検討すべきである。将来的には、さらなる海外展開を見据え、海外投資家や取引先からの信頼性を高める措置として、指名委員会等設置会社や監査委員会等設置会社の採用なども検討すべき価値があると考える。

   (3) また、吉本は経営者、株主、社員に加えて約6000 人のタレントが所属している。その向こうにタレントを応援しているファンがいる。こうしたタレントやファンから吉本は信頼できる会社であると認識してもらえるような対外的な情報発信が必要である。

第6 今後の委員会方針


 本中間取りまとめにて整理された事項については、吉本において具体的な検討を進め、その進捗を改めて本委員会へ報告することが確認された。本委員会は、今後も吉本からの報告内容を受け、適時にアドバイスを続けていくこととしたい。
 本委員会からの提言を踏まえ、吉本が、グローバルスタンダードにかなう業界のリーディングカンパニーとして、ファン、所属タレント、社員、そしてあらゆるステークホルダーから愛され、社会から信頼される企業となることを強く期待する。

以上


                        






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